Twitterで近藤秀一選手、三津家貴也選手を中心に開催されている「走る研究室」が非常に有益でしたので、備忘として(というかより多くの人に知ってほしいです)ポイントをまとめておきたいと思います。
「ここはあまり書かない方が良いな」と個人的に感じた箇所は外しておりますので、「走る研究室」全体の9割程度の内容と考えて頂ければと思います。残り1割の内容が気になる方は、実際に「走る研究室」を聞いていただくと良いと思います。
Contents
日本選手権の資格記録の高騰
- 日本選手権の資格記録には、①参加標準記録(突破していれば必ず出場可能)、②申込資格記録(上位者から定員まで出場可能)があるが、近年のシューズの高機能化に加え、2020年日本選手権において絶好のコンディションを背景に好記録が続出したことなどが影響し、資格記録が大きく上がっている。
- 2021年5-6月に開催された日本選手権長距離種目の各記録:
- 800m(①1.48.50、②1.49.50)
- 1500m(①3.42.00、②3.46.00)
- 5000m(①13.32.00、②13.40.00)
- 3000mSC(①8.40.00、②8.55.00)
- 近藤選手集計の5000m/10000mの年間ランキングによると、2020年は大幅な記録水準の向上が見られる
- 10000m各年10位の記録は、2017年28’08、2018年 28’08、2019年28’10に対して、2020年は27’49
- 10000mの各年50位の記録は、2017年28’32、2018年 28’32、2019年28’35に対して、2020年は28’10
- 5000mは2017-19年の各年50位の記録が13’50程度だったところ、2020年は13’41
実業団選手と市民ランナーの練習時間の違い
- 実業団選手と市民ランナーで練習時間そのものはそこまで変わらない(実業団選手の場合、朝練1時間、夕方1.5時間~2時間)。そもそも時間があったとしても、練習時間は無限に増やせるものでもない。
- 実業団選手と市民ランナーでは練習間のリカバリーが大きく異なる。
- 市民ランナーは仕事をしている。(肉体的疲労に加えて心理的な疲労も嵩みやすい・解消しにくい)
- 市民ランナーは高強度な練習をやりすぎると、仕事に悪影響が出る。(→8-9割の強度での練習の継続がより重要)
実業団選手と市民ランナーそれぞれのメリット
- 実業団選手のメリットは競技への集中環境と練習環境
- 実業団選手として練習をすることで、練習メニューの質が高まる
(近藤選手は大学時代に強豪校ではなかったため)1000mであれば5-7本を軸としていた。1000m×10本が当たり前という実業団の世界に入り、最初はあまり練習ができなかったものの、2年目にメニューをこなすことで自信がつき結果が出た。 - 自分の能力を100%引き出すためには、怪我のリスクもあるが「短期間で集中的に鍛える」という方法もある。
- 自分で練習メニューを組み立てていると、(「やるべき練習」に加えて)どうしても「自分のやりたい練習」という要素が入ってきてしまう。
- 実業団選手として練習をすることで、練習メニューの質が高まる
- 市民ランナーのメリットは、長期的スパンでトレーニングができることと、レースをうまく使えること。
- 3年、5年、10年などの長期的スパンでトレーニングができる市民ランナーは、(仮に短期目線の成果が出なくても)短期目線のレース結果に縛られずトレーニングすることが可能な点で実業団選手と大きく異なる。(⇔実業団選手の場合、年度毎の契約リスクや、駅伝で勝ってほしいという会社の期待に応える必要もある)
- 市民ランナーの場合練習の延長でレースに出ることができる。(⇔実業団選手の場合最低限求められる結果が存在する)
- 大学時代にあまり周囲に揉まれず市民ランナーに近い環境でやってきた近藤選手は、「ノルマがある環境で競技をすることがプラスになる」と考えて実業団入りをした。市民ランナー(的な環境)と実業団の両方を体験することに意味があったと考えている。
- 安定的に結果を出せている実業団選手は、(駅伝シーズン、合宿、日々のメニューなど)チームの流れに乗りながらも、敢えて自分を持って流れに乗らないこともある。
- 結局その人がしっかりしていれば、実業団選手だろうが市民ランナーだろうがどんな環境でもできる(それを言うと身も蓋もないが)
市民ランナーの強化プラン
- 週2回(例えば火・土)ポイント練習、どちらかのポイント練習の翌日にロング走が基本形。
- 土日を両方使えるのであれば、火曜はファルトレクぐらいでも良い。
※ファルトレク=2分ジョグ、2分スピードアップ×8セットなど、距離ではなく時間を決めてペース変化を反復する練習 - 【三津家選手】レース期にはレースに出ながら状態を上げていくという考え方もある。その場合、同時に練習の強度も求めると筋疲労の蓄積につながり、怪我リスクが高まるため、練習では持久力強化をメインにするなど調整が必要。
- ターゲットレースに向けて年間2ヶ月ぐらいは「走力向上」を目指してもよいが、怪我による長期離脱の防止という観点から、残り10ヶ月は「走力の維持」という考え方もある(13分40秒を狙っているランナーでも、年間10ヶ月は14分1桁で走れていれば良いという考え)
- 【近藤選手】2020年9月に自己新を出したが、当時の練習を常に継続していくのは相当難しいと感じた。実際その後に怪我もあった。
- 年間10ヶ月は1キロあたり5-10秒落としても十分走力を維持可能であり、長く続けていれば徐々にプラスになっていく。
- 年間の波(=期分け)の考え方と同様に、3-5年単位での波があっても良いと思う。各年で得られた特異的能力は持続するはずなのでプラスになる。
市民ランナーSさんの例
- 「必要な練習は何か?」、「後回しにして良い練習は何か?」を考えるようになった。
- 社会人として時間がない中、あれもやった方がよい、これもやった方が良いというなりがちな中で「どの練習を捨てるか?」が重要。
- ウエイトトレーニングは捨てている練習の1つであまりやっていない。
- 失敗リスクが高い練習は避ける。(9割5分の練習を狙うより、9割の練習を揃えていく)
市民ランナーJさんの例
- オールラウンダーを目指しながら1500mから10000mまで取り組んでいる。伸び悩んだら別の種目を練習することで、伸び悩んでいた種目の記録が向上することもある。
- 結果が出ている人の練習メニューを遡って参考にしながら、色々な練習を楽しむ、「こういう練習をやったらうまくいく」という感覚を楽しんでいる。
- 1週間トータルの練習メニューを決め、その日のコンディションによって自分がやりやすいように(ペース走、インターバルなどの)順番を入れ替えている。
- 有酸素を鍛えながら狙ったレースの1ヶ月に特異的な練習をすれば記録が出る。